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黒字倒産を防ぐ4つの資金繰り改善策
倒産という言葉を聞くと、企業の業績が長期的に低迷し、仕入代金を支払うこともできない、内部留保も底をつき、新たに資金を借りることもできない…という、八方ふさがりの状況を思い浮かべる人も多いかもしれません。
しかし、実際の倒産はもっとシンプルなものです。支払日に資金が足りず、支払い不能に陥れば倒産に至ります。そんな企業の中には、売上は好調で帳簿上は黒字、というところも。逆に言うと、経営者が資金繰りにしっかりと目を配っていなければ、黒字倒産になってしまう可能性があるのです。本記事はそんな黒字倒産を防ぐために、黒字倒産の意外な原因や、4つの資金繰り改善策を紹介します。
黒字倒産とは
黒字倒産とは、P/L上では黒字でありながら、倒産に至ることです。掛売が中心の企業の多くは、売上が計上されてから、実際に回収されるまでタイムラグが生じます。一方で、その売上を上げるための支払い(仕入や外注費など)は回収よりも先に行わなければなりません。その他にも借入金の返済など、必要な経費を手持ちの資金の中から支払わなくてはなりません。
資金繰りに失敗し、資金がショートしてしまうと、その企業は倒産してしまいます。このような倒産は、P/L上の損益が赤字か黒字かに関係なく起こります。そして、帳簿上は黒字であるにもかかわらず、資金不足に陥った状態が黒字倒産です。
東京商工リサーチの調査によると、2022年の倒産企業383社。コロナ禍で売上が低迷し、金融支援としての制度融資以外の金融債務も膨らんだ結果、債務超過に陥った企業も多く、また高騰する人件費などが原因で倒産直前で最終赤字になった企業が62.9%を占めました。
(出典:東京商工リサーチ:2022年「倒産企業の財務データ分析」調査)
しかし、ここで注目したいのは、倒産企業のうちの「赤字ではなかった」企業37.08%です。この中には黒字倒産も含まれていたことが推測されます。逆に、赤字であっても生存している企業が25.49%あることも見て取れます。
ここから、帳簿上の数字だけを見て、「自社は黒字だから大丈夫」とは言えないことがわかります。黒字倒産の原因や、黒字倒産を防ぐ資金繰り策を理解することが重要です。
黒字倒産が起こる意外な理由
黒字倒産を起こす原因は、大きく分けて3つのパターンがあります。
- 過剰在庫が積みあがる
- 売上債権(受取手形・売掛金)を回収できない
- 無理な投資が経営を圧迫する
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
過剰在庫が積みあがる
帳簿上では在庫の仕入費用は仕入段階では計上されず、売上になった段階で計上されます。仕入した在庫は資産になるため、在庫を増やすことで帳簿上は黒字になります。これを単純化した例で考えてみましょう。
【実際の現金の流れ】
- 仕入費用…仕入価格10万円の商品を10個購入で10万×10=100万円
- 売上…30万円の売値で販売し、2個販売したため30万×2=60万円
- 現金…売上-仕入費用=60万円-100万円=-40万円→40万円の赤字
【帳簿上の数字】
- 売上高…60万円
- 売上原価…仕入100万円-在庫10×8=80万円=20万円
- 利益…60万円-20万円=40万円→40万円の黒字
企業が成長を急いで大量の在庫を抱えてしまうと、例を見ても明らかなように、販売によって利益を得る以上に現金が流出します。時間がかかっても販売によって現金の回収ができれば良いのですが、商品の陳腐化や評価損失によって現金化が滞ると、たちまちキャッシュフローの悪化を招きます。
売上債権(受取手形・売掛金)を回収できない
売掛金や受けた手形などの債権を回収できない場合、企業は収益を現金化できず、資金不足に陥ります。こちらも単純化して考えてみましょう。A社はB社に商品を100万円で販売しました。
【帳簿上の数字】
- 売上高…100万円
- 仕入…50万円
- 諸費用…20万円
- 利益…30万円
【実際の現金】
- 収入…0万円
- 支出…70万円
- 現金…△70万円
A社は70万円の支出を、3か月前に同じ商品を販売したC社からの売掛金を回収してまかなおうと考えていました。ところがC社は経営不振に陥り、売掛金は回収不能になってしまいました。そうなるとA社のキャッシュフローはたちまち行き詰り、帳簿上は問題がないにも関わらず経営状態は悪化します。
無理な投資が経営を圧迫する
過剰な投資や無計画な投資は、企業の財政に悪影響を及ぼします。新規事業や設備の導入など、ビジネスを成長させるためには投資は必ず必要となります。しかし、十分な調査や計画なしに行う投資は、予測不能なリスクを招き、資金不足や債務超過の原因となります。
無理な投資が原因となって倒産に至った企業の例として、航空会社スカイマークがあります。LCC(格安航空会社)の草分け的存在だったスカイマークは、2010年以降、業績が急上昇し、国際線事業に進出します。2011年にはエアバス社が生産する大型旅客機A380を6機導入することを決定。1,800億円を超える投資を行ったのです。
しかし、購入を決定した時期は右肩上がりだった業績も、LCCをはじめ他の航空会社との激化する競争の中で、低迷し始めます。2014年には資金繰りに行き詰り、エアバス社は契約解除を通告、あわせてスカイマークに700億円以上の違約金を請求するに至ります。これにより、スカイマークの経営状態は悪化、2015年1月には民事再生手続開始申立を行いました。
このように、将来のビジネスを考える上で、投資は非常に重要ですが、投資した結果がキャッシュフローを生み出すことができなければ、会社の資金繰りは圧迫されます。
また、もう1点、スカイマークが経営破綻に至った経緯には、次のような意外な原因がありました。スカイマークが無借金経営だったことです。スカイマークは無借金経営でメインバンクを持たなかったために、銀行融資による資金調達を行うことが難しかったのです。
スカイマークの事例は、過剰投資の恐ろしさを教えてくれると同時に、信頼できるメインバンクを持ち、銀行融資による資金調達が重要であることを教えてくれます。
黒字倒産を防ぐ4つの資金繰り改善策
黒字倒産を防ぐには、安定したキャッシュフローを生み出せるような経営を行うことしかありません。そのために、次の4つの資金繰り改善策を紹介します。
- 1.在庫管理を徹底する
- 2.入金・支払時期を見直す
- 3.事業部別・店舗別の採算を把握する
- 4.財務専門家との信頼関係を構築する
各項目について詳しく見ていきましょう。
1.在庫管理を徹底する
自社が保有する在庫を「どこに」「どれだけ」「どのように」保管されているのかをきちんと把握し、必要な場合に最適な状態で出荷・利用できるようにしておくことが重要です。こうすることで自社にとって適正な在庫数を確認でき、正確な需要を予測でき、効率的な仕入れと販売が実現可能になります。
また、一定期間を超えて滞留している在庫は、保管のためのコストもかかるため、手放すようにしましょう。在庫管理を効率的に行えるシステムの導入も検討してください。
2.入金・支払時期を見直す
黒字倒産は、入金と出金のタイムラグから生じます。このタイムラグをできるだけ短くすることが重要です。つまり、入金を早め、支払を延ばすことでキャッシュフローは大幅に改善します。顧客との交渉や取引条件の見直しを行いましょう。
3.事業部別・店舗別の採算を把握する
定期的に各事業部や店舗ごとの採算を明確にすることで、投資が適切に行われているかどうかを評価できます。投資のリターン(ROI)の高い部門や店舗に資源を適切に配分し、不採算部門や店舗に対しては投資を抑えつつ、撤退も視野に入れながら、てこ入れを行います。これにより、企業全体のキャッシュフローを最適化することも可能になります。
4.財務専門家との信頼関係を構築する
財務専門家との信頼関係を築くことで、経営者は的確なアドバイスや戦略を得ることができます。経営者は自社の事業に関してはプロであっても、残念ながら財務のプロではありません。そこで、税理士や会計士、ファイナンシャルアドバイザーなど、信頼のおける人と信頼関係を構築し、自社の財務状況を相談することで、資金繰りの専門知識を取り入れながら、自社に合った財務戦略を立てることができるようになります。
資金繰りについてはこちらの記事でも詳しく説明しています。ぜひ参考にしてください。
会社の資金繰りを劇的に改善する8つの方法 ~資金繰り悪化はすべて社長の責任です
まとめ
今回は、黒字倒産について説明しました。黒字倒産とは、帳簿上は黒字であるにもかかわらず、キャッシュフローが滞り、支払不能になる倒産です。赤字や債務超過などに比べ、帳簿上には問題が現れていないため、一層危険ともいえます。
本記事では黒字倒産には主に3つの原因があることを述べました。「過剰在庫が積みあがる」「売上債権(受取手形・売掛金)を回収できない」「無理な投資が経営を圧迫する」という原因は、規模の大小はあれど、どこの企業にも起こりうることです。そのため、本記事ではあわせてそれぞれの原因にあわせた対応策も紹介しました。
対応策の中で、最も重要なことは、「財務専門家との信頼関係を構築する」ということです。「身近に相談できる専門家がいない」という不安をお持ちの方は、ぜひ、あすかタックス&コンサルティングへご相談ください。私たちの豊富な経験と知恵を、御社のビジネスの成長にご活用ください。
代表 石井 輝光
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