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失敗しない事業承継5つのポイント
2025年問題をご存じですか?これは、2025年までに70歳を超える経営者約245万人のうち、後継者の決まっていない経営者の約半数の127万人が、会社を廃業させてしまうかもしれないという問題です。これにより、650万人の雇用と22兆円のGDP、これまで受け継がれてきた技術やノウハウがすべて失われることになります。
この問題の解決には、事業承継によって会社や事業を存続させるしかありません。しかし、親族や社内に後継者が見つからない経営者はどうしたら良いのでしょうか?
そこで近年注目されているのが、親族や社内後継者以外にM&Aによる事業承継です。本記事では事業承継とは何か、M&Aと事業承継とはどう違うのか、事業承継のメリットやデメリットを整理するとともに、実際に事業承継を行う上で、失敗しない3つのポイントもご紹介します。
事業承継とは?
最初に「事業承継」とは何かを整理しておきましょう。
事業承継は、1つの会社や事業を現在の経営者から新しい経営者に引き継ぐプロセスです。これは、経営者が引退する、会社の所有者が入れ替わる、または事業を他の企業に売却する場合に発生します。
経営者は事業承継を通じて、企業の経営権と財産権、知的資産の3つを後継者に引き継ぎます。
- 経営権の承継
- 財産権の承継
- 知的資産の承継
企業の経営権を引き継ぐ。引き継ぐために後継者の選定・育成を行う。
自社株式や企業資産(設備や不動産など)、資金(運転資金・借入金など)を後継者に引き継ぐ。
経営理念や製造ノウハウ、顧客情報や取引先の人脈、ブランドなど、目に見えない資産を後継者に引き継ぐ。
事業承継は、企業の存続と発展を確保し、従業員の雇用を守るために重要なステップであり、円滑な移行を実現するために計画的に行われます。
事業承継とM&Aの違い
近年、事業承継とあわせて、よく耳にする言葉としてM&Aがあります。M&Aは「合併」を意味するMergersという言葉と「買収」を意味するAcquisitionsという言葉を組み合わせた略語で、企業や事業の合併や買収を意味します。
本来、事業承継とM&Aは異なることなのですが、近年、事業承継にM&Aを活用するケースが増えているため、両社が同じ意味で使われることも多いのです。では、事業承継にM&Aを活用するとはどういうことなのでしょうか?
事業承継は、誰に事業を引き継ぐかによって3種類に分けられます。
- 親族内承継(実子や実子の配偶者、親族に継いでもらう)
- 親族外承継(会社の社員や役員に継いでもらう)
- M&Aによる事業承継(他の企業に継いでもらう)
親族や社内に後継者が見つからない場合、M&Aを活用して他の企業に会社や事業を譲渡することで事業承継を行うことができます。これが、M&Aによる事業承継です。M&Aによる事業承継を行った場合、一般的に経営者は自社の株式を承継先の企業に売却するため、経営者はその後、経営にノータッチになります。しかし、M&Aを行うことで、新しい経営者に会社や事業を引き継いでもらい、従業員の雇用を守りつつ、取引先との関係を維持・発展させる、というのが、M&Aによる事業承継の考え方です。
M&Aについて関心がある方は以下の記事も参考にしてください。
M&Aで企業価値を高める9つのポイント
事業承継のメリット・デメリット
先述のように、事業承継には「親族内承継」、「親族外承継」、「M&Aによる事業承継」の3種類があります。ここではそれぞれの承継について、メリットとデメリットを見ておきましょう。
親族内承継のメリットとデメリット
以前は、多くの会社で実子や実子の配偶者に継がせることが「当たり前」とみなされていました。近年では徐々にその割合が減っているとはいえ、事業承継件数全体の中では親族内承継の割合が38.3%(2021年帝国データバンク調査)と最も高くなっています。こうした親族内承継のメリットとデメリットを整理しましょう。
【親族内承継のメリット】
-
事業の連続性が確保できる
親族内承継は、家族の伝統やビジョンを事業に引き継ぐ手段として機能します。これにより、事業の連続性が確保され、長期的な経営戦略を維持しやすくなります。
-
先代と承継者の間に信頼感がある
親族間の信頼感や家族の協力関係が、組織内の効果的なコミュニケーションと連携につながります。これにより、効率的な経営と問題解決が可能になります。
-
情熱が持続可能性につながる
親族は事業に対する強い情熱を持っていることが多く、事業を維持・発展させる強い意欲を持っています。この情熱は従業員や顧客にも良い影響を及ぼすでしょう。
-
情報漏えいのリスクが少ない
家族内での経営では、競合他社に対する戦略情報を外部に漏らすリスクが低くなり、競争上の優位性を維持しやすくなります。
【親族内承継のデメリット】
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経営に向き・不向きがある
親族内承継において、経営者が経営スキルや経験を持っていない場合や、経営者としての資質がない場合には、事業の効果的な運営に悪影響を及ぼす可能性があります。
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内部対立の可能性がある
先代と承継者の間で意見の相違や対立が発生しやすく、事業の意思決定プロセスが難しくなる場合があります。また、家族内の感情的な不和が事業に影響を及ぼすこともあります。
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複数の後継者が登場する可能性がある
親族内に複数の承継候補者がいる場合、誰が承継するかをめぐって対立が起こり、争いになる可能性があります。
親族外承継のメリットとデメリット
親族内承継が徐々に減っているのに対し、年々その割合を増やしているのが親族外承継で、2021年には17.4%を占めるようになりました。親族外承継のメリットとデメリットを以下に挙げます。
【親族外承継のメリット】
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経営者の経験と知識を引き継げる
社内の経営者や役員が承継する場合、彼らはすでに企業の運営に関する豊富な経験と知識を持っています。これにより、経営の連続性が確保され、業務への理解が深まります。
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組織文化が維持できる
社内の人々が経営を承継することは、企業の文化や価値観を維持しやすくなります。これは従業員の安心感や安定感につながり、組織内の安定性を維持します。
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スムーズな移行が可能
社内の経営者や役員が承継する場合、事業の持ち主や社員との連携が円滑に行えるため、経営のスムーズな移行が可能です。
【親族外承継のデメリット】
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資金負担の必要がある
承継者は先代の債務を引き継いだり、株式を買い取ったりする必要があります。そのため、承継者は必要な資金を用意しなければなりません。
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新しい視点が不足する恐れがある
後継者を選ぶ場合に、多くの経営者は自分の経営戦略などを引き継いでくれる人を選びます。その場合の承継者は従来のやり方を踏襲しがちになり、新しいアプローチや多様性を嫌う傾向が生じます。デジタルイノベーションを含め、さまざまな変化が求められる時代には、リスクにつながる恐れがあります。
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内部対立の恐れがある
社内での承継は、場合によっては内部の対立が発生するリスクが存在します。これは組織内の不和を引き起こす可能性があります。
M&Aによる事業承継のメリットとデメリット
M&Aによる事業承継の件数 は年々伸びており、2021年には全事業承継数のうち20.3%を占めています。M&Aは、後継者を考える経営者の有力な選択肢となっていることがうかがえます。M&Aによる事業承継のメリットとデメリットを整理します。
【M&Aによる事業承継のメリット】
-
後継者問題を解決できる
M&Aによる事業承継により、会社には新しい経営者が誕生します。経営者は安心して引退ができます。
-
従業員の雇用が確保できる
後継者が決まらず廃業してしまえば、従業員は雇用先を失います。しかし、M&Aによって会社が継続すれば、引き続き同じ会社で働くことができます。
-
製品やサービスを残すことができる
会社が存続することで、自社が製造してきた製品やノウハウが蓄積されたサービスが失われることはありません。顧客も安心して利用し続けられます。
-
より強い事業基盤に引き継いでもらえる
M&Aによって会社や事業を引き継ぎたいと考えている買い手企業の多くは、強い経営基盤を持っています。そのため自社の今後の成長が見込まれます。
-
資産の獲得
M&Aによる事業承継の多くが株式の譲渡によって行われます。経営者は株式を売却することで現金を手にすることができます。
【M&Aによる事業承継のデメリット】
-
買い手が見つからない場合がある
M&Aによる事業承継を希望しても、希望条件に合う買い手がかならず見つかるとは限りません。時間がかかる場合があるだけでなく、自社の経営状態や製品の魅力、生産プロセスなどを厳しく査定されることになります。
-
経営にはタッチできない
M&Aの場合、経営者は株主ではなくなるため、事業承継後は経営に一切関与することはできません。
親族承継、親族外承継、M&Aによる事業承継、それぞれにメリットとデメリットがあります。さまざまな方策を検討したうえで、メリット・デメリットを踏まえ、信頼できるアドバイザーと相談の上、自社に最適な選択を行いましょう。
失敗しない事業承継5つのポイント
事業承継を失敗しないためには、次の5点を押さえておくことが重要です。
- 1.早めに準備を開始する
- 2.信頼できる専門家を見つける
- 3.自社の経営状態や課題を整理する
- 4.事業承継に向けて自社をブラッシュアップする
- 5.事業承継計画を策定する
各ポイントを詳しく見ていきましょう。
1.早めに準備を開始する
事業承継は長期的な計画が必要です。経営者が「まだまだやれる」と思った時期、おおよそ60歳になったら開始することが大切です。早めに事業承継に向けた心づもりをし、「いつの時期までには後継者の目星をつける」「いつの時期までにはアドバイザーを見つける」など、おおまかな10年程度の計画を立てましょう。少しずつ始めることで、具体的にすべきことも見えてきます。社内・社外から後継者を探すつもりなら、後継者の意向も確かめなければなりません。そうすることで後継者も時間をかけて調整と学習を行う機会が得られます。
2.信頼できる専門家を見つける
事業承継には専門的な知識が必要です。税理士や弁護士などの法律専門家、地域の商工会議所や商工会、地域の事業引継ぎセンターなどに相談しながら、信頼できる専門家を見つけましょう。
3.自社の経営状態や課題を整理する
自社の強みや課題を正確に評価しましょう。魅力のない会社には、承継したいと希望する人も現れません。自社の財務状況や組織の運営、競争環境、顧客関係などを専門家も交えて詳細に分析します。
4.事業承継に向けて自社をブラッシュアップする
解決すべき課題が明らかになったら、次に解決に向けて何をすべきかを検討し、実行計画を策定しましょう。業績の最適化、効率化、ブランディング、新規市場の開拓などを検討し、承継者のために魅力的な事業を提供できるよう努力します。
5.事業承継計画を策定する
事業承継計画は詳細なロードマップです。後継者の選定、資産の評価、税務計画、経営権の移行、紛争解決の手順などを明確に定義しましょう。計画を文書化し、すべての関係者が理解しやすい形で伝えましょう。
事業承継の成功事例
一般に、事業承継やM&Aというと、中小企業といってもある程度の規模の会社というイメージが強いのも事実です。しかし、実際には小さな会社でも、自社の事業に強い思いを持っている会社も多くあります。ここでは身近な会社のM&Aによる事業承継の成功事例を2つ紹介します。
事例1:さいたま給食
中里氏は大手給食事業会社での経験を活かして60歳でさいたま給食(株)を設立しました。中里氏の信条は「己の欲せざる所は人に施す勿れ」。人情味あふれる経営スタイルが顧客や取引先との信頼を築き、黒字決算を続け、社員の離職も少なく、安定した職環境を実現していました。
しかし、70歳を迎えた中里氏は引退を考え始めます。経営の承継してくれる従業員もおらず、社内での事業承継は断念せざるを得ませんでした。しかし、会社の業績は悪くなかったために中里氏が取った手段はM&Aでした。そこで埼玉県事業引継ぎ支援センターに相談に行きました。5か月後、東京都事業引継ぎ支援センターから給食事業の買収ニーズがあるという連絡を受けます。買収ニーズを登録していたのは、M&Aで事業拡大してきた(株)CSSホールディングス傘下のヤマト食品(株)でした。
中里氏が提示した条件はふたつ。現在のお客さんに迷惑をかけないことと、すべての従業員を現在の待遇で引き取ってもらうことです。ヤマト食品がOKし、当初、株式譲渡で進められていた話し合いも、中里氏の意向で最終的には事業譲渡という形式で事業引継ぎが完了しました。関係者一同、誰もがハッピーになれる結末をむかえました。
事例2. 内装工事会社清建
戸張勝一氏(74)は内装工事会社「清建」を創業し、社長として長年経営を担当していましたが、70歳を超え、体調不安から引退を考えるようになりました。問題は後継者がいないことです。当初、承継予定だった長男が経営を継ぐのを嫌がったため、後継者問題に悩むことになりました。清建は約10人の社員と約60人の職人を抱え、年商は約7億円で、大手ゼネコンとの取引もあります。清建を廃業することも考えましたが、難しい決断でした。
戸張さんは会計事務所の紹介で、M&Aを検討することになりました。名乗りを挙げたのは、埼玉県行田市の湯本内装の社長である湯本茂作さん(71)です。湯本内装は内装工事業を手掛け、年商は約30億円で、湯本さんも後継者問題に悩んでいましたが、清建の事業を引き受けることで双方にメリットがあると判断しました。両社は異なる得意分野を持ち、技術と人材を結集することでシナジー効果を期待しました。
戸張さんにとって重要な条件は、従業員の雇用と待遇の維持、社名と事業所の継続使用でした。湯本さんも従業員の働く環境に配慮しており、両社の思いや従業員への思いが一致したため、湯本さんは、戸張さんの条件に従い、清建の名前と事業所を維持したまま経営を引き継ぎました。湯本さんは従業員が快適に働ける環境を大切にし、共通の経営理念に共感し、清建を湯本グループの一員として引き継ぎました。
60歳を過ぎたら経営者は事業承継の準備を
人生100年時代を迎えるなか、60歳というとほとんどの経営者は第一線でご活躍のことと思います。しかし、事業承継は、時間のかかる取り組みであると同時に、かならず取り組まなければならない課題でもあります。
事業承継は大別して、親族内承継、親族外承継、M&Aによる事業承継があります。いずれを選択するにしても、承継には準備が必要で、計画的に進めなければなりません。また、財務面、税務面、法律面で専門家の手を借りることも重要です。
経営者が大切に育ててきた小さな会社と並走しながら、あすかタックス&コンサルティングは数多くのM&Aや事業承継のお手伝いをしてきました。また、買い手の社長とともに、承継した会社や事業をより発展させるために尽力しています。M&A・事業承継についてのご相談は、ぜひあすかタックス&コンサルティングにお任せください。
代表 石井 輝光
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