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支払サイトの交渉で資金繰りを改善する方法
ほとんどの中小企業の経営者は、月末の支払いや、従業員の給料の支払いなど、資金繰りに頭を悩ませているでしょう。資金繰りの改善の方法というと、どんな方法でも試してみたくなるのではないでしょうか?資金繰りの改善方法には、資金調達を始め、さまざまな方法があります。しかし、意外と基本的なことを見落としていませんか?
資金繰りに大きな影響を与える要件として、「支払サイト」があります。支払サイトが適切に設定されていないと、帳簿上は黒字なのに運転資金がショートする「黒字倒産」を起こす可能性があるのです。逆に、支払サイトを交渉することで、資金繰りを改善することもできます。
本記事では、この支払サイトとはどのようなものかを説明し、一般的な支払サイトを紹介します。また、支払サイトの交渉についても説明しますので、ぜひ参考にしてください。
支払サイトとは
支払サイトとは、支払期日から売上金額の入金がある期日までの期間を指します。
企業間取引をしているほとんどの企業が「掛取引」をしていることでしょう。掛取引とは、取引先とあらかじめ「取引代金の締め日」と「支払日」を決めておき、その期日に取引先に請求書を発行し、その後、代金を払ってもらう支払い方式です。
よく使われるのが、「月末締めの翌月末払い」方式です。例えば1月中に取引をしたら、1月末に請求書を発行し、2月の末日に支払ってもらうという支払い方法になります。この時、商品の売上時期(取引代金の締め日)と売上金の回収時期にタイムラグが生じます。このタイムラグの期間、すなわち掛取引の支払い期日から、実際に売上金額が振り込まれる期日までの期間が、支払サイトというわけです。
取引代金の締め日(請求書発行日)から実際に支払いが行われる日までが「支払サイト」
企業間の取引で行われている掛取引では、商品やサービスの提供時ではなく、定められた期日に支払われる、信用関係に裏付けられた取引です。その「定められた期日」を双方が確認するために、支払サイトが明確化されています。
場所を意味するsite(サイト)ではないことにご注意を
「サイト」と聞くと、「企業サイト」「販売サイト」のように、場所を意味するsite(サイト)を連想しがちです。しかし、「支払サイト」のsightは、貿易決済での手形一覧払を意味する「at sight」に由来する、日本独自の用法です。英語では「payment term」「terms of payment」のように期間を表すtermを使います。
一般的な支払サイトを知っておこう
支払サイトは「法律で何日間」と決まっているわけではありませんが、商習慣として一般的に設定される支払サイトは決まっています。また、下請代金のように、法律で決まっている支払サイトもあります。ここでは、次の3つのパターンに分けて紹介します。
- 現金・口座振り込みの支払サイト
- 下請代金の支払サイト
- 手形の支払サイト
現金・口座振り込みの支払サイト
現金支払いや口座振り込みの支払サイトで一般的なのが、「30日サイト」と「60日サイト」です。
- 30日サイト…月末締め、翌月末支払
- 60日サイト…月末締め、翌々月末支払
現金決済では30日サイトと60日サイトが一般的
下請代金の支払サイト
下請け業者に商品やサービスを依頼した場合の支払サイトは、「受領日から60日以内」に定められています。発注側と受注側に資金格差がある場合は、立場の弱い下請事業者を守るための下請法が適用され、商品やサービスを受領してから60日以内に支払を行わないと罰則があります。そのため、他の取引先と同様に「60日サイト」を適用すると、下図のように法律違反になるため、注意が必要です。
下請への支払は「受領日から60日以内」
手形で支払われる場合
支払が手形で行われる場合は、通常の支払サイトに加え、手形の支払サイトも加わるため、30日から120日で設定されます。
手形の支払サイトとは、手形の「振出日」から、手形が現金化できる「支払期日」までを指します。そのため、月末締め翌月末払で60日手形による支払を受ける場合は、通常の30日サイトで手形が振り出されたのちに、60日の手形サイトが発生するため、90日間の支払サイトになります。
手形支払の場合は通常の支払サイトに手形サイトも加わる
手形で支払を受ける場合は、回収まで時間がかかるため、キャッシュフローに十分な注意が必要となります。
支払サイトの期間がキャッシュフローに与える影響
支払サイトの期間がキャッシュフローに大きな影響を与えることを具体的に見ていきましょう。支払サイトを設定する場合には、自社が売手の場合(販売を行う側)と、自社が買手の場合(仕入れなどを行う場合)の二種類があります。
自社が売手の場合は、支払サイトが短いほど有利になります。また、買手の場合は、長いほど有利になります。
自社が100万円で商品を販売し、同時に100万円の仕入を行ったケースをモデルにして考えてみましょう。自社が販売の支払サイトを60日に設定し、仕入の支払サイトを30日に設定したとします。販売代金100万円を回収できるのは60日後なのに、30日後には仕入代金100万円を支払わなくてはなりません。つまり、30日間は、手元資金はマイナス100万円になってしまいます。
売手の支払サイト>買手の支払サイトだと資金不足に
次は、自社が販売の支払サイトを30日に設定し、仕入の支払サイトを60日に設定した場合です。販売代金100万円は30日後に回収できますが、仕入代金は60日後で、30日間、手元資金に100万円の余剰が生まれます。
売手の支払サイト<買手の支払サイトだと資金余剰が生まれる
以上から、「売手の場合は支払サイトを短く、買手の場合は支払サイトを長く」という原則を忘れないようにしてください。
支払サイトの交渉で資金繰りを改善しよう
資金繰りの悪化は、支払サイトが原因かもしれません。問題の支払サイトを見つけ、交渉を通じて改善する方法を説明します。
取引先との支払サイトを見直そう
資金繰りを改善するために最初にやっておきたいのが、「売手の場合は支払サイトを短く、買手の場合は支払サイトを長く」という原則に沿って、自社の支払サイトが設定されているかどうかを見直すことです。
売上代金の支払サイトをチェックする
売上代金の支払サイトは、15日~30日が理想とされています。「短い方が良い」といっても、15日以下の支払サイトでは、請求書の発行を始め、売手・買手とも手続きなどが煩雑になるためです。先方から言われるままに、60日サイト、90日サイトなどが設定されてる場合、売上代金の支払サイトはできるだけ短くするように取引先と交渉しましょう。
また、支払期限が過ぎても入金されていない売掛金はないでしょうか?取引先との良好な関係は重要ですが、支払サイトを過ぎても入金がない場合の対処法(督促メールなど)を事前から仕組み化しておきましょう。
仕入代金の支払サイトをチェックする
仕入代金の支払サイトは60日が理想とされています。60日より短い支払サイトの取引先はないか、チェックしてください。短い支払サイトがあれば、取引先と交渉します。交渉の進め方については、次の章で詳しく説明しています。
また、下請けの事業者を利用している場合は、受領してから60日間であることを忘れないようにしましょう。
支払サイトの変更を交渉する
支払サイトの見直しを通じて、売上代金の回収までに長すぎる支払サイトが設定されている取引先や、仕入代金の支払サイトが短めに設定されている取引先が見つかったら、支払サイトの変更を交渉しましょう。
交渉を行う場合は、最初に「お支払方法変更のお願い」などの件名でメールを送り、交渉を打診することが一般的です。メールには次の内容を記載します。
-
変更をお願いする理由
なぜ変更をお願いするのかを記します。取引先にも納得してもらえるような理由にしてください。
例:原材料価格の高騰により資金繰りに余裕がなくなった -
変更の具体的内容
現状の支払サイトと変更後の支払条件を並記し、どこがどのように変わるかを明確にし、あわせていつからの変更なのか変更日を記します。
- 【例】
-
現状の月末締め、翌々月払いの60日サイトを、月末締め翌月払いの30日サイトに変更
〇〇月〇〇日ご請求分より
メールには、「後日あらためてご説明にうかがいたいと存じます」などの文言で、交渉を設定してくれるように依頼します。
新規取引先と支払サイトを設定する場合
企業の取引は、売手の場合、買手の場合ともに多く、多岐にわたります。新規の取引先と新たに契約し、支払サイトを決定する前に、あらかじめ、日次金繰り表などによって手元資金の入出を確認しておきましょう。向こう3~6か月程度の手元資金が不足することのないように希望する支払サイトを確定し、交渉しましょう。
支払サイト交渉を有利に進めるために
支払サイトの交渉を行う際は、次の2つのステップで進みます。
- 相手にも納得してもらえる条件を出す
- 支払サイトを書面化する
ステップ1. 相手にも納得してもらえる条件を出す
「売手の場合は支払サイトを短く、買手の場合は支払サイトを長く」という原則は、取引先にとっても当てはまります。自社に有利な支払サイトは、取引先には不利な支払サイトになってしまうことが少なくありません。
しかし、取引で最も重要なことは、取引先との信頼関係を構築することです。自社にとって有利な支払サイトを認めてもらう上で、相手にとっても便益のある条件を提示することが重要です。
例えば、次のような条件が考えられます。
【自社が売手の場合】
- 支払サイトを短くしてもらう代わりに割引をする
- 商品量を増やす
- 追加サービスや特典を提示する
【自社が買手の場合】
- 支払サイトを長くしてもらう代わりに取引量を増やす
- 長期的な契約をする
ステップ2. 支払サイトを書面化する
取引先と合意が完了したら、実際の取引がスタートする前に、合意内容を書面化しておきましょう。
- 支払サイトの変更内容
- この変更がいつから実施されるか
さらに、その書面を先方に送付することで、今後のトラブルを避けることができます。
まとめ
本記事では、支払サイトについて、基本的な意味や、一般的な支払サイトの期間、支払サイトが資金繰りに与える影響と、取引先との支払サイトの交渉について説明しました。支払サイトを設定する上で何よりも重要なのは、「売手の場合は支払サイトを短く、買手の場合は支払サイトを長く」という原則です。この原則を忘れず、なおかつ交渉の際には相手にも有利になるような条件を提示しつつ、支払サイトを設定してください。
あすかタックス&コンサルティングでは、支払サイトの設定や、中小企業の資金繰り改善のための相談を受け付けています。資金繰りに悩む中小企業の経営者は、ぜひ無料相談をご利用ください。
代表 石井 輝光
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