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法人化の落とし穴!不動産を個人名義から法人名義に移すときの注意

カテゴリー: 不動産投資

不動産投資を数年続け、物件数や収益が増えてくると、そろそろ法人化した方がいいのだろうか?と考える時期が訪れます。法人化は節税や経営の安定につながる一方で、知らずに進めると大きな税負担が発生するなど、落とし穴が少なくありません。

本記事では、不動産法人化の目的から、名義変更時に発生する税金、金融機関との関係、実行のタイミングや手順まで、押さえておくべきポイントをわかりやすく解説します。これからの不動産経営をより安定させるために、法人化のメリットと注意点を正しく理解し、最適な選択ができるよう一緒に確認していきましょう。

なぜ不動産を法人名義にしたいのか?法人化の目的を整理しよう

法人化を成功させるための最初のステップは、なぜ今、法人化が必要なのか?という目的の明確化です。この目的が曖昧だと、最適な法人形態や名義変更のタイミングを見誤り、後悔する結果になりかねません。多くの不動産投資家が法人化を検討する背景には、主に以下の3つの理由があります。

法人名義

節税効果の最大化(税率の是正)

法人化を考える最も多くの人が、期待するのは節税効果です。では、どのくらいの節税効果があるのでしょうか?個人事業主の税額と、法人の税額を比較してみましょう。

  • 個人事業主の場合: 不動産所得は給与所得などと合算され、所得税(累進課税)と住民税が課税されます。所得金額が900万円を超えると所得税の税率は33%に達し、住民税と合わせると税率は約43%にもなります。
  • 法人の場合: 利益に対して課税されるのは法人税・法人住民税・法人事業税(実効税率)です。利益の規模にもよりますが、所得が高くなればなるほど、個人事業主よりも法人の方が実効税率が低くなるラインが存在します。一般的に、課税所得が800万円~1,000万円を超えるラインが、法人化のメリットが顕著になる一つの目安とされています。

相続・事業承継対策

法人名義にすることで、不動産の所有権が法人に移ります。個人名義の場合、不動産そのものが相続財産となり、現物分割の難しさや高額な相続税評価といった問題が発生するのに対して、法人名義の場合、相続財産となるのは不動産ではなく、その法人への出資持分や株式です。

株式は少額ずつ生前贈与しやすいため、財産分割の柔軟性が高まり、長期的な事業承継対策を立てやすくなります。

リスクの限定と事業の拡大

個人名義での投資は、万が一のトラブルや債務が発生した場合、個人の全財産が責任の対象になります(無限責任)。法人化することで、責任は原則として法人財産に限定されます(有限責任)。投資規模が大きくなるにつれて、このリスク限定効果は大きな安心材料となります。

また、法人として事業を行うことで、社会的信用力が上がり、個人事業主では難しかった大規模な融資や、新たな事業展開(例:不動産管理業など)への足がかりとなります。

なお、法人化による不動産管理会社の設立については、
不動産オーナーは不動産管理会社を設立して節税しよう
でも詳しく説明しているので、こちらも参考にしてください。

個人名義から法人名義に移すときに発生する税金に注意

法人化を検討する際に、最も誤解されやすいポイントが個人名義の不動産を法人に移すと、税務上は売却とみなされるという点です。たとえ自分が100%出資する法人であっても、形式上は個人→法人の売買が行われた扱いになるため、想像以上の税負担が発生することがあります。

不動産売買

譲渡時に個人で発生する譲渡所得税

個人から法人へ不動産を売却する際、売主である個人に以下の税金が課税されます。

譲渡所得=譲渡価格(時価)-(取得費+譲渡費用)

譲渡価格とは、不動産を法人に売却する際に実際に受け取る金額(売却代金)のことです。この場合、時価(適正な売却価格)で譲渡するのが原則です。もし時価より著しく低い価格で譲渡すると、法人側で受贈益(みなし贈与)が発生し、法人税が課税されるリスクがあります。

取得費とは不動産を購入したときの金額や付随費用、譲渡費用とは仲介手数料など、売却にかかった費用です。

注意すべき長期譲渡と短期譲渡の税率

この譲渡所得に対する税率は、その不動産を所有していた期間によって大きく異なります。

【所有期間による税率の違い】
所有期間 譲渡所得の分類 所得税・住民税の合計税率
取得日から譲渡日まで5年以内 短期譲渡所得 39.63%
取得日から譲渡日まで5年超 長期譲渡所得 20.315%

次に、譲渡所得税が長期保有と短期保有ではどのくらい違うのか、ざっくりとした計算式で見てみましょう(※なお、実際の税額は取得時の費用や物件の時価、法人設計などにより、大きく変動します。法人化の可否判断には、専門家による詳細試算が必須です)。

ここでは、以下の条件を共通の例として使用します。

譲渡価格(時価)…3,000万円
取得費(購入価格)…2,000万円
譲渡費用(仲介手数料など)…100万円
譲渡所得=譲渡価格(時価)-(取得費+譲渡費用)=3,000万円-(2,000万円+100万円)=900万円

【3年保有の場合】

譲渡所得税額=900万円×39.63%≒356.7万円
⇒3年で譲渡すると、約357万円もの税金が個人に課税されます。この税額が、法人化で得たい節税メリットを上回ってしまう可能性があります。

【6年保有の場合】

譲渡所得税額=900万円×20.315%≒182.8万円
⇒6年保有してから譲渡すれば、税額は約183万円となり、短期譲渡に比べて約174万円も税負担が軽減されます。

この例から分かるように、個人名義の不動産を法人へ移す際は、5年超という保有期間の壁が、納税額に決定的な差を生み出します。法人化を進める前に、譲渡予定のすべての物件について、いつ購入したかを必ず確認することが極めて重要です。

名義変更時に原則としてかかる登録免許税と不動産取得税

不動産の所有権が個人から法人へ移転するため、新たな税金も発生します。それが登録免許税と不動産取得税です。

新たな税金

【登録免許税と不動産取得税の概要と注意点】

税金の種類 概要 注意点
登録免許税 法人名義への登記変更にかかる税金 売買による移転の場合、原則として
固定資産税評価額の2%がかかる
不動産取得税 不動産の取得に対して課税される地方税 原則として固定資産税評価額の3%または
4%がかかる(宅地や住宅など特例あり)

これは、第三者への売買や贈与と同じ税率です。法人化に当たって物件を多く所有している場合、これらの税金だけでも数百万円単位のコストとなる可能性があり、事前の資金計画に必ず組み込む必要があります。

名義変更によるリスクと金融機関対応の注意点

不動産投資における法人化は、税務の観点だけでなく、融資を受けている金融機関との関係の面でも手続きが必要です。特に、個人名義で融資を受けて購入した物件を法人名義へ移す際には、事前に相談し、了解を得ていないと、最悪の場合、融資の一括返済を求められるというリスクが発生するため、以下の点に十分注意してください。

無断の法人化(名義変更)は絶対にNG

金融機関と交わした金銭消費貸借契約書(ローン契約書)には、必ず期限の利益の喪失に関する条項が含まれています。この条項には、「担保物件の所有権を勝手に第三者に譲渡、または名義変更した場合は、直ちに融資の全額を返済しなければならない」という旨が記載されているのが一般的です。

法人化は、個人から法人への売却・譲渡ですので、金融機関から見れば担保物件を勝手に第三者(法人)に売却したと見なされる行為です。金融機関に無断で名義変更の手続きを進めて登記を完了してしまうと、契約違反となり、期限の利益を喪失(残りのローンを一括で返済する義務が発生)するリスクがあります。これは、不動産投資事業の継続を危うくする最も深刻な事態です。

融資の巻き直し(借り換え)が原則必要となる

このリスクを回避し、個人から法人へ安全に名義を移すためには、担保権を握っている金融機関の承認を得ることが不可欠です。多くの場合、金融機関が求める手続きは融資の巻き直しとなります。

この手続きは、個人名義のローンを法人名義に借り換える、もしくは法人が新しいローンで個人から不動産を買い取るというものです。これにより、担保物件の所有者と、ローンの債務者が法人に一本化され、金融機関も安心して担保権を維持することができます。

この時、次の点に注意しましょう。

  • 審査のやり直し:法人が新しく債務者となるため、法人としての信用力や事業計画、そして個人の保証も含めて、融資の審査が再度行われます。
  • 個人保証:法人化しても、設立間もない法人の場合、金融機関は代表者である不動産オーナーに連帯保証を求めることがほとんどです。これにより、リスクを完全に法人に限定する(有限責任)というメリットは限定的になることを理解しておく必要があります。
  • 融資条件の変更:借り換えによって、金利や返済期間、手数料などの融資条件が変わる可能性があります。事前に複数の金融機関に相談し、条件の良い融資を確保することが重要です。

銀行への相談

金融機関への相談はいつ行うべきか?

法人設立を検討し始めた段階で、まずは融資を受けている既存の金融機関の担当者に相談を始めるのが最も安全なルートです。しかし、銀行によっては法人化に積極的でない場合や、法人融資を扱っていない場合もあります。

まずは、「法人化を検討しており、物件を移転する際の融資対応について相談したい」と率直に伝えましょう。その上で、既存行での借り換えが難しい、あるいは条件が悪い場合は、法人向けの不動産融資に強い金融機関を探し、セカンドオピニオンを得ることが重要です。

法人化のタイミングと実行手順を理解しよう

法人化は、あなたの不動産投資事業を安定した軌道に乗せるための、まさに経営戦略そのものです。これまでの章で触れた税金と金融のリスクを回避し、メリットを最大限に享受するためには、最適なタイミングと適切な手順で進める必要があります。

法人化の最適なタイミングを見極める

法人化に絶対的な正解の時期はありませんが、検討すべきは主に以下の3つのタイミングです。

法人化

1.所得800万円~1,000万円を超えた時

個人事業主の課税所得がこの水準を超えると、所得税の税率(33%~40%)が法人の実効税率を上回り始め、法人化による節税メリットが大きくなる可能性があります。この時期が、純粋な節税目的での法人化の最適なタイミングと言えます。

2.所有期間が5年を超えたとき

個人名義の物件を法人へ譲渡(売却)する予定があるなら、譲渡する物件の所有期間が5年を超えているかどうかを必ず確認してください。前述の通り、5年以内の短期譲渡は税率が約40%と高くなり、法人化のメリットを大きく損ないます。

3.相続や資産承継を見据えて準備したいとき

不動産を個人で持ち続ける場合、相続で分割が難しく、兄弟間でのトラブルに発展しやすい側面があります。法人化することで、株式を引き継ぐだけで承継が完了できることや、法人として管理が一本化され、遺産分割トラブルを回避できること、また、家族が役員として関わりやすい、というメリットがあるため、次世代への承継を意識した時期は重要な検討タイミングと言えます。

法人設立から名義変更までの実行手順

法人化は、単なる会社設立手続きではなく、税務、法務、金融が絡み合う複雑なプロジェクトです。以下のステップで計画的に進める必要があります。

Step 1:専門家への相談・シミュレーションを開始する

譲渡所得税、登録免許税、不動産取得税などのコストを試算し、法人化のメリットがあるかを数値で確認します。税理士や司法書士など、不動産法人化に強い専門家を選び、相談しましょう。

Step 2:融資を受けている金融機関に相談する

専門家と相談して法人化にゴーサインが出たら、現在融資を受けている金融機関に相談し、法人化を検討していると伝えて、融資の巻き直しの可能性や条件を打診します。ここでOKが出たら、担保物件の名義変更の承認を得ましょう。

Step 3:法人(会社)の設立手続きを開始する

新しい事業の受け皿となる会社を設立します。金融機関の審査に有利となるよう、資本金の設定の検討も必要です。

Step 4:物件の評価額を算定し、譲渡を実行する

適正な時価で個人から法人へ物件を売却(または現物出資)します。適正な時価をどう設定するかは税務上の重要論点です。専門家の助言のもと、客観的な根拠(固定資産税評価額や路線価など)に基づき価格を決定しましょう。

Step 5:融資の巻き直しを実行する

法人名義で融資を受け直し、個人の旧ローンを一括返済します。巻き直しが完了するまで、既存の個人ローンは返済し続けなければなりません。時間差による二重負担の期間も考慮が必要です。

Step 6:法人の運用を開始する

法人として事業を開始します。初年度は特に、個人の確定申告(譲渡所得税の支払い)と法人の確定申告が重なるため、専門家にすべて任せるのが安全です。

法人化は信頼できる専門家の手を借りることが重要

法人化は、税制優遇、金融機関との折衝、法務的な登記手続きがすべて同時並行で進みます。これらの課題を一人の力で完璧にこなすのは困難であり、また、一つのミスが大きな税負担につながります。特に重要なのは、不動産投資に特化した経験豊富な専門家のサポートです。

  • 不動産投資の税務に詳しい税理士:譲渡所得税の計算、法人設立時の資本政策、法人税の最適化を担います。
  • 不動産登記に詳しい司法書士:登記手続きを安全かつ迅速に進めます。
  • 金融機関への交渉をサポートできるコンサルタント:借り換えの最適な金融機関選びや交渉の進め方をアドバイスします。

専門家と連携することで、法人化のメリットを最大限に引き出し、同時に税務・金融のリスクを最小限に抑えることができます。

まとめ

本記事は、不動産法人化を検討するオーナーに向けて、個人名義から法人名義に移すときの注意点について、あすかタックス&コンサルティングが解説しました。不動産投資における法人化は、事業規模が拡大した投資家にとって、税金とリスクを最適化する強力な戦略です。しかし、個人名義から法人名義へ資産を移す際には、譲渡所得税の重い税負担と、融資の一括返済リスクという二つの大きな落とし穴が待ち構えています。

法人化を成功に導くためには、専門家の助けが必要です。あすかタックス&コンサルティングでは、不動産投資家が抱える法人化の悩みに、最適なタイミングとスキームをご提案しています。まずは無料相談から、不動産投資事業を次のステージへと進める第一歩を踏み出しましょう。

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代表 石井 輝光

貴社の社長にも質の高い国の経営改善・M&Aの認定機関として経営改革、資本性ローン等、地主・大家さんのタックス&コンサルティング、顧問等の支援を通してお伝えします。
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